【未来童話】牢屋のこども

ある晩のことでした。

こどもは細く明るく輝く月が不思議に感じ、その月を眺めに散歩に出かけました。

そして、ある道の地面が盛り上がっていることに気付きます。

何かが出てくると予感したこどもは、その場をじっと見ていました。

地面はやがて盛り上がり、崩れ、中から腕が生え、長い髪が出て、とうとう女の子が出てきました。

「ゾンビ!」

「違うわ! 人間よ」

「どこから来たの?」

「檻のある場所からよ」

ここのすぐ近くには確かに刑務所がありました。

「じゃあ、あなたは悪い人?」

「悪いことなんて一度もしたことない。でも、生まれてきたのは悪いことかもしれないわ」

「どうして?」

「だって牢屋の中で生まれたんだもの!」

子供はビックリしました。

「逃げ出してもいいの?」

「私が生まれたことは友達しか知らないから、いいのよ」

「友達?」

「私がここから出るのを手伝ってくれたのよ」

「その友達は、悪い人?」

「私にとっては良い人」

「ふーん」

「ねえ、私、外の世界は知らないの。道案内してくれる?」

「いーよ」

「ラッキー」

こどもの散歩のお供が増えました。

長い髪の女の子です。

こどもは、たまに走ったりしていろんな場所を女の子に教えました。

美味しいオムライスが出るお店、カレーが食べられるお店、ゲームができるお店、服を洗濯できるお店、一つ一つに女の子はおどろきました。

そして、未来にそのお店に行く自分を想像しました。

「行く当てはあるの?」

「ママの知り合いが近くまで来てるんだって。私その人を見つけなくちゃいけないの」

「ママがいるの?」

「そう、ママはまだ檻の中。しばらくしたら会いましょうって約束したの」

「よかった」

「あなたはママいるの?」

「うん。いま家で寝てるかも」

「あら、お揃いね」

ある程度の道案内をこどもから聞いた女の子は、ママの知り合いの待つ場所へ向かいました。こどももそれについていきます。

そろそろ散歩も終わりです。

子供は、少しの間つむがれたこの冒険にワクワクしていました。

「檻の中はどうだった」

「つまんない所だった。昼はずっと一人で過ごして、大人にバレないように息を潜めるの。夜になってもみんな疲れててイライラしたりすぐ寝たり。でも皆幸せを求めてた」

「檻の中は幸せじゃないの?」

「ママは幸せって言ってたかも。でも私はあそこじゃ幸せになれないよ。外に出て、ママと一緒にいろんなことがしたいわ!

今から幸せになるの ああ楽しみ!」

髪の長い女の子が向かった先には、一台の車が停まっていました。

女の子が近づくとランプがついて、こどもは足を止めました。ここでお別れをしようと思ったのです。

「じゃあね、ゾンビさん。元気でね」

「さよなら物“づき”さん! また会えたら遊びましょ」

「うん」

二人手を振って、女の子が車に入るのを見届けて、こどもはお家に帰りました。

空に細く明るく輝く月が、まだ出ているうちの、ある晩のことでありました。


のべるぶというディスコード内で行われた「童話や絵本になるものを投稿しようの会」で投稿したものです。

朗読になるように書きましたが、人と相談して複数人劇にしてもかまいません。

行雲流水

「こううんりゅうすい」 ありのまま私の思いついた作品を投稿したいという思いで名づけます。

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