【未来童話】おばあちゃんの鏡
おばあちゃんの鏡付きの机ををもらった。
ボクは男の子なのに、パパもママも要らないから、ボクがもらった。
この机は、女の人がお化粧をする時に使うらしい。
でももらった鏡は、何も写さなかった。
ある日、ボクが寝ている時
部屋の何処かから「シクシク、シクシク」と悲しい時に流す音がした。
誰が泣いているんだろうと思い、部屋中を探して、その声はあのおばあちゃんの鏡が流していることに気がついた。
「どうして ないてるの?」
「あの子に 会えないのが かなしいの
あの子に 使ってもらえない ことが かなしい
イヤよ イヤよ」
「これからは ボクが つかうよ」
「イヤよ イヤよ
あの子じゃ なきゃ いや」
そうしてシクシク シクシク 泣いていました。
あまりに悲しそうなもんだから、一晩話を聞いていたが、ずっと悲しいままなのでボクは最後ムキになって「これから まいにち ボクが つかう」と怒鳴った。
鏡は悲鳴をあげるように「あなたに なんか つかわれたくない!」と言った。
そうして二人の使い使われない日々が始まったのでした。
毎日ボクは身だしなみをおばあさんの鏡で整えようとし、その度に鏡は真っ暗にして何も写しませんでした。
ボクが小学校を卒業し中学生になっても、またそこから学年を上げてもずっとです。
その頃には二人ともかなり言い合いをする仲になりました。世間話もします。けれど最後には「あしたも つかう」とボクが言って、鏡が「イヤよ イヤよ」と言って終わりました。
ある日 ボクは朝から綺麗な服を着ていました。寝癖を抑えるのも学校に行くときはやりません。ボクはまたおばあちゃんの鏡の前に座りました。
「きょうこそ たのむよ」
「イヤよ イヤよ」
「きょうは 好きな子と でかけるんだ
洗面台の鏡でも いいけど
あれは よく見えないから
きょうこそ つかわれてくれ」
「……おでかけ?」
鏡の様子が変わりました
「そう おでかけ
しょうがっこうから おなじがっこうの
おんなのこ やっと ふたりきりで あそべるんだ
いつもの ボクじゃないって おもわれたいの
だから 鏡 つかわせて」
「いいわよ いいわよ!」
たちまち鏡は輝き、ボクの姿を写しました
「ああうれしい うれしいわ なつかしい
そう あの子も そうだったの
ずっと好きな人が いてね
その人には いつまでも 綺麗で
素敵な じぶんを みてほしくって まいにち わたしを つかってくれたわ
あるひから つかわれなくなって
わたしのこと わからなくなって
とうとう いえをでていって しまったの
とてもかなしかった
綺麗になる ためなら いくらでも わたしを つかって ちょうだい!
ああうれしい うれしいわ」
鏡は本当に嬉しそうでしたが、あまりにも張り切りすぎているのか、普通の鏡でみるボクよりかなりカッコ良く見せてくれていました。これでは本当のボクらしくなくて、身だしなみを整えることができません。
「なあ もうすこし かっこわるく できないか?
このままじゃ かっこよすぎて みだしなみを ととのえられない」
「いいのよ いいのよ
こいする あなたは だれよりも かっこいいわ」
「うるさいわ」
ボクは顔が真っ赤になりました。
(終)
のべるぶというディスコード内で行われた「童話や絵本になるものを投稿しようの会」で投稿したものです。
朗読になるように書きましたが、人と相談して複数人劇にしてもかまいません。
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