次に悪魔が「お前が死ね」と言った。
◉天国にいる時の話。ファンタジー
◉詠唱で戦う
◉叫ぶ
◉シリアス。バッドエンド
天使に「こいついいやつだなー」って思われたり
悪魔に「きもちわるい」っていわれたり
心がぐちゃぐちゃになるような物語を吸いたい方向け
キャラ一覧
ワクラバ 天使 皆に好かれている。演じるとき嫌われる覚悟がいる。
サヤ 天使 優(サヤ) あなたの理想の姿をしている。
(女性を仄めかす表記が出ますが無性として取り扱ってください)
カンパニュラ 悪魔 いじわるでよく舌がまわる。出番が後半からになる。
男女比 1:0:2 (男1人不問2人)
所用時間 30分(たぶん)
字数 9000字
メンタルは万全であり、地獄みたいな展開になっても読めてしまう自信がある方のみ進んでください。
サヤ(ナレーション):紫雲(しうん)103番地に住んでいるワクラバという天使の家が火災に見舞われた。
サヤ(ナレーション):ワクラバという天使は、天使に珍しく手間をかけて丁寧な暮らしをするのが好きで、暖炉に火をかけて家を温め、食事を毎日決めた時間に食す。飛び抜けて勤勉なやつで、ワクラバと接したことのある天使はみな尊敬をしていたのだ。
サヤ(ナレーション):家から助け出されたワクラバはその身も業火に焼かれていた。特に背中が重症で、天使の象徴たる翼が骨も残らず焼き尽くされるほどである。髪も跡形もなく燃え、皮膚が在らぬところに癒着してしまっている様子は、いくつもの天使を見てきた医者も思わずうめき声をあげてしまうほどに凄惨な姿だった。
サヤ(ナレーション):天使は人とは違い、大怪我をしてもいずれ回復する。しかしワクラバは違った。身体中の火傷が治り、髪が肩にかかるほど伸びてきても、翼が生えてこないのだ。医者によればこれは本人の精神的負荷があるためか、ワクラバを怨む何者かがワクラバの天使としての責務を妨害しているのではないかという話だった。
サヤ(ナレーション):天使にとって翼はなくてはならないものだ。【翼のないものは天使ではない】。医者はワクラバの火傷が治っても退院を許さず、また誰との面会も許可しなかった。
サヤ(ナレーション):21月になって、ようやくワクラバとの面会が許可された。事件から既に13ヶ月が経過していた。
:
ワクラバ:……サヤ
サヤ:ワクラバ! 久しぶり。ワクラバとこんなに会えないなんて滅多にないから、寂しかったよ
ワクラバ:久しぶり。俺もサヤに会えてよかった
サヤ:退院はいつ頃になるの?
ワクラバ:羽が生えるまで無理だと
サヤ:それっていつ?
ワクラバ:……。 (答えない)
ワクラバ:なあ、俺の羽がなくなったこと、どれくらいの天使が知ってるんだ
サヤ:あんまり知らないと思う。火事が起きたときに翼が燃えたっていう話はすぐ広まったけど、皆その後は体の回復とともに生えているもんだとおもってるよ
ワクラバ:そうか
サヤ:……私さ、翼を作ってくれる人がいないか、ちょっと探してみたんだ
サヤ:あんまりいいところはないね。天使の姿になって人間に悪さをしたい悪魔向けの偽造品ばかりだ
ワクラバ:そいつは……
サヤ:天使がその翼をみたら偽物だと気づくかもしれない。でもこれをつかえば生えてくるまでのすこしの間天使らしく生活ができるかもしれない
ワクラバ:でも俺の仕事は天界の治安維持だ。プライベートではどうにかなるかもしれないが、仕事に出たらきっとすぐ仲間にバレる
サヤ:だから、生えてくるまで私の仕事の手伝いをしよう
ワクラバ:……悪魔討伐に?
サヤ:私は基本単独で仕事している。仲間に会うことも滅多にない
ワクラバ:でも俺は、自分の身が守れない。俺はどの天使よりも力がない。足手まといだ
サヤ:もちろん私が守る。それより何ヶ月も仕事をしていないほうが不味い。このままだと”あの御方”に存在を消されてしまう
ワクラバ:……
サヤ:ねえワクラバ、頼むよ。私はワクラバに生きていてほしいんだ
ワクラバ:……ああ、わかった
サヤ:やった! じゃあ医者に話してすぐ退院しよう
サヤ:あ、そうだ
サヤ:ねえ、ワクラバ。家が燃えていた時、なにしてたの?
ワクラバ:直前のことはあんまり覚えていないんだ
サヤ:そっか。過剰なストレスを受けると出来事の前後の記憶がなくなるって言うもんね。それかな……
サヤ:私はね、今回の事件、誰かが【力】を行使したんだろうと睨んでるんだ
ワクラバ:俺が事故で起こしたことだと思わないのか?
サヤ:それもあるかもしれないけど、もし事故だとしたら、家が全焼する前に鎮火させるでしょ? ワクラバが力を使ってもいいんだし、それも難しかったら人に助けを求めてもいいんだし。私とか!
ワクラバ:ああ、そうか……
サヤ:だから、これは事故なんだよ。犯人探ししなきゃね
サヤ:そうだ! ワクラバ、家がもう跡形もなく燃えちゃったんだ。退院したらしばらく私の家に泊っていいよ
ワクラバ:いいのか?
サヤ:もちろん!
ワクラバ:……いつもありがとう。
:
:_________
:ワクラバは退院し、サヤの調べた天使の翼を売るお店からデコイの翼を入手した。
:サヤの家で、ワクラバに翼をつけている
ワクラバ:重い……
サヤ:体につけてるもので、【繋がっている】ものじゃないからね……。生えてくるまでこれで生活するしかない
ワクラバ:でもお店にすぐに売ってくれるものがあってよかった。オーダーメイドだけだったらまた時間がかかるところだった
サヤ:でもウカウカしてられないよ。前に【天使の試験】の話したの覚えてる?
ワクラバ:ああ、来年にあるんだっけ?
サヤ:そう! 今回こそワクラバに受験してもらって昇格してほしいんだよ
サヤ:天使の試験、それに受験して合格すれば相応の位まで昇格できる試験
サヤ:私はもう中天使だけど、ワクラバはまだ小天使でしょう。生まれたての天使だからしょうがないけど、きっとワクラバなら、私と同じ中天使になれるよ
ワクラバ:……それ、考えたんだけどさ。やっぱり力のない俺には受験してもどうしようもないと思うんだ。これ以上はあがらない。皆よりできることなんてないし
サヤ:リーダーに必要なのは力じゃなくてカリスマ性だよ。ワクラバにはそれがあるじゃないか。皆ワクラバの言うことは聞くでしょ?
ワクラバ:……そうだね
サヤ:それに、僕達が出会ってすぐの頃のワクラバは力が使えていたじゃないか。きっと今が使いづらい時期なだけなんだ。また使えるようになる
ワクラバ:……どうかな
サヤ:……。翼も、力も、いつまでも戻ってこないようだったら医者に相談しよう。医者でもどうにもならなかったら、”あの御方”に相談しよう。ワクラバは勤勉で優秀な天使だからきっと”あの御方”だって何か考えてくれるはず
サヤ:それより、つけた翼の調子はどう? ベルトの締め具合とか、動いたときに翼がズレて気分が悪くならないように調整しよう__
:
:_________
:
:ワクラバは退院した。サヤの家に寝泊りする生活を初めて数日がたった。
ワクラバ:ハア、退院して今日で1ヶ月。やっと羽にも慣れてきた感じがする
サヤ:本当? じゃあそろそろ買い物とかならいってもいいかもねえ
ワクラバ:多分大丈夫だろ。確かにこの羽、近くでみると偽物なのがすぐにわかるけど、すぐ買えたものにしては出来がいい。すれ違うくらいならきっと誰も気づかない
サヤ:……確かに、言われてみるとそうかもしれない
サヤ:翼をより派手に見せるためのファッションで飾りの翼を上から被せる天使がいるけど、こうしてみると飾りの翼って言われても信じられそうだ
サヤ:うん、これ、仕事復帰できるよ! よかった
:サヤの持つ携帯から着信音が鳴り響いた。
サヤ:あれ電話だ。ちょっとでてくるね。もしもし__
:サヤ、退出
ワクラバ:……
ワクラバ:本物の羽みたい、ね
ワクラバ:重い。すごく重い。早く脱ぎたい。脱ぎ落して、楽になりたい
ワクラバ:気分が悪い
ワクラバ:……腹ァ、減ったな
:サヤ、帰ってくる
サヤ:ワクラバ! 悪魔の討伐依頼が来たよ
ワクラバ:……
サヤ:うん。アッもちろん安全なようにすこし離れたところで結界つくってそこにいてもらうけど
サヤ:でも事故は起こらないように。ちゃんと準備していこうね
ワクラバ:場所は?
サヤ:又雲(またぐも)、罷路(まかりぢ)八番地
ワクラバ:ちょっと遠い?
サヤ:ここからだとすこし遠いかも。ワクラバはいま翼が使えないから、運んで一緒に行こうね
ワクラバ:ありがとう
ワクラバ:サヤは、
サヤ:なあに?
ワクラバ:どうして何もできない俺に優しくしてくれるの
サヤ:ええ? だって、ワクラバが困ってたら助けてあげたいよ!
ワクラバ:天使はみんなそう言う
サヤ:そうなの!? じゃあみんな、ワクラバの良い所がわかるからそう思うんじゃない? 私もそうなんだろうな
サヤ:でもどうして、どうしてかあ。考えたことなかったや
サヤ:……。うん。これは仕事が終わってからまたゆっくり考えるよ
サヤ:今日は大仕事だからね! だってワクラバと一緒に仕事ができるんだから
サヤ:夢みたいだ。私、一緒に仕事してみたかったんだよ。ワクラバと……
ワクラバ:……ありがとう。サヤ
ワクラバ:なあ、サヤ
サヤ:ンっ? なに?
ワクラバ:俺、試験うけるよ
サヤ:……ほんとう?
ワクラバ:うん
サヤ:ちゃんと言ってくれたの初めてだよね
ワクラバ:そう。でも前から決めてはいたんだ
サヤ:そうか。フフ、やったぁ! 楽しみだな。だったら尚更今日の仕事は頑張らなくちゃね!
:
:_________
:
:又雲罷路八番地に到着した。
サヤ:ワクラバ、ここだよ。悪魔のにおいがする
ワクラバ:悪魔のにおい?
サヤ:そう。気を付けてね、アイツら__
カンパニュラ:あれぇ。悪魔狩りだ
サヤ:__姑息なやつらばかりなんだ
カンパニュラ:なあに、悪魔の悪口? 泣けちゃうなあ
サヤ:離れてワクラバ
カンパニュラ:わくらば? そいつの名前ワクラバっていうんだ
カンパニュラ:ぼくカンパニュラ。悪魔なんだ
サヤ:ナンバーT110034、中天使サヤ。我が父の名のもと、いまから悪魔討伐を開始します
カンパニュラ:【悪魔討伐】なんて物騒だねえ
サヤ:結界を張ります。……ワクラバ、そこから出ないようにね
ワクラバ:サヤ、気を付けて
カンパニュラ:ふうん、一緒にいる天使は戦えないのか
サヤ:あの子はいま職場見学のまっ最中なんだ。私が無理を言ってついてきて貰っている
カンパニュラ:悪魔の討伐なんて子守中でもできるっていいたいわけ? 中天使だっけ。僕も随分ナメられたもんだね
サヤ:(ナイフを取り出す)
カンパニュラ:ちょっと、なにその小っちゃいナイフ! まさかそれが君の武器なんて言わないよね!?
サヤ:まさかだよ。私の相棒なんだ
カンパニュラ:ハ~~~。僕も堕ちたもんだな。こんな弱っちくてしょうもない天使の相手をしなくちゃいけなくなっちゃうんだ
サヤ:悪魔なんだからそれ以上堕ちることないでしょ?
カンパニュラ:確かに! 天使のくせにうまいこと言うね
サヤ:褒められても嬉しくないなぁ。悪魔には
サヤ:<タム・アトゥラチア>
:魔法が発動する。火の玉がカンパニュラに向かう
カンパニュラ:……ッ!
カンパニュラ:なるほど、悪魔狩りをしている天使なだけある。あんなのに当たったら僕でもタダで済んでないな
カンパニュラ:でもまだ弱い。君のその実力で中天使なら、僕は大悪魔だ。僕は強いよ? いまなら逃がしてあげる
サヤ:逃げないよ。
サヤ:<メズロンマ>
カンパニュラ:アチッ! 当たっちゃったよ! あちあち
サヤ:カッコ悪いところは見せられないもの
カンパニュラ:そんなに大事? あの飛べない天使が
サヤ:仲間なんだから当たり前でしょ
カンパニュラ:オエ、天使の仲間意識ほど気持ち悪いものはないね
サヤ:悪魔が言うことじゃないんじゃない?
カンパニュラ:確かに! あはは
カンパニュラ:でもあいつ、多分思ったほどいいやつじゃないよ
サヤ:悪魔に何がわかるの
サヤ:<ズフス>
カンパニュラ:ギャー! さっきよりも火力があがってる!
サヤ:<ロア・イロティフ>
カンパニュラ:ッ……! 熱いッ!
カンパニュラ:おかしいだろ! そんなバカスカ力を使って! エネルギー切れが怖くないのかッ!?
サヤ:フフッ。悪魔に言うことはない
カンパニュラ:チッやられっぱなしも癪だしな
カンパニュラ:<トゥーオイム・インドゥコン>
サヤ:ッ! <ヴィーネ>!!!
:水の球が生成される。サヤはそれを蒸発させた。
カンパニュラ:火の玉ばかりが飛んでくるけど、力を使うんだったら尚更そのナイフは飾りじゃないの? 形がそれである必要はないよね
サヤ:そんなことないよ。これでできる戦い方っていうのはあるもんだから
サヤ:それに、このナイフはいい相棒なんだ。私の手によく馴染む
カンパニュラ:ふうん
サヤ:<デミユリス>
カンパニュラ:<シアメヘ>ッ!
サヤ:……ッ! 水の威力がつよい!
カンパニュラ:<イハル・ラクース>!
:サヤに命中した。
サヤ:グア……ッ!
カンパニュラ:ああなるほど、わかったぞ
カンパニュラ:そのナイフ、焔の力を使うと威力があがるのか
カンパニュラ:見えたよ。持ち手のお祈りの言葉にね
サヤ:フ……。今更だよ。もう場は整った
カンパニュラ:なに?
サヤ:<ヴシア・エテ・ブネーム> 悪魔を焼き尽くせ
カンパニュラ:ッ! 今までの焔の力がナイフに溜まっていたのか!? 鉄製のもつ熱膨張率を弄って大剣に……ッ!?
カンパニュラ:クソッ! <アレアオアンタグ>ッ!!! 討ち殺してやるッ!
:互いの魔法は命中した。
:ワクラバにかけられた結界が溶ける。ワクラバはサヤへ駆けだした。
ワクラバ:サヤッ!!!
ワクラバ:サヤ、あし、足が……
サヤ:……さすがに、痛いね、でも、だいじょう、ぶ
ワクラバ:大丈夫なもんかッ!! 腹から下が吹き飛んだんだぞッ!?
サヤ:フフ、なおる、よ
サヤ:それより、悪魔は、死んだ……?
ワクラバ:ああ、任務成功だ。サヤ、早く家に帰ろう
サヤ:うん……
サヤ:ワクラバ……
ワクラバ:うん?
サヤ:ちゃんと、みてた……?
サヤ:……
ワクラバ:ああ、ちゃんとみてた。強いな、すごいよ、サヤ
サヤ:へへ。ワクラバにも、きっと、できる、から、ね
サヤ:力は、弱いかも、しれない。でも、道具を使えば、強い悪魔とも、戦える、だから……
ワクラバ:……さや? 寝た?
:サヤは眠りについた。
:ワクラバはカンパニュラのほうに近寄った。
カンパニュラ:あ、足手まといさん
カンパニュラ:僕まだ死んでないよ。さっさと”ママ”を起こしてどーにかしてもらったほうがいいんじゃない?
カンパニュラ:それとも、君がどうにかできるの?
ワクラバ:……。(羽の内側から複数の白いベルトを取り出す)
カンパニュラ:なにそれ、拘束具? でも任務は僕の討伐でしょ?
カンパニュラ:てか、”ママ”に内緒でそんなことしていーの?
カンパニュラ:……?
カンパニュラ:ア。お前、【地獄】で、
:
:(暗転)
:_________
:
:天使の病院にて
ワクラバ:ここかな
ワクラバ:サヤがいる部屋
ワクラバ:面会って、来た時誰かに許可取らなくてもいいんだな。もうちょっとしっかりしてると思ってた
ワクラバ:名前もあってる。絶対ココだ
:ワクラバ、ドアをあける。
ワクラバ:サヤ、来たよ
ワクラバ:すごい。この部屋、いい景色だ。あそこの雲山の凹凸がよく見える。覚えてるか? 昔ああいう山の途中で飛んだり歩いたりしたよな
ワクラバ:雲のやわさを踏み締めた。あの頃は楽しかったな
ワクラバ:……
ワクラバ:……なあ、サヤ
ワクラバ:俺、羽がついたんだ
ワクラバ:動かし方忘れちゃったから、リハビリでもして頑張ろうって思うんだけど、まずサヤに見せたくて来たんだ
ワクラバ:……もし目覚めるとしたら、すくなくても12ヶ月は掛かるって言われたよ
ワクラバ:それから切り離された下半身が完全に生えてくるまで30ヶ月
ワクラバ:……長いな
ワクラバ:なあ、サヤ。天使の試験の応募期間が始まったよ。早速応募してきた
ワクラバ:サヤが元気になったとき、いい知らせを持ってこれるように頑張るから。だから、みてて
ワクラバ:ずっとみててくれ
ワクラバ:おれ、サヤのおかげで、……。
ワクラバ:……悪い
ワクラバ:……
ワクラバ:俺、あんたに嘘ついてる
ワクラバ:悪いのは、俺だ
ワクラバ:どうすればいいんだろうな
:ワクラバは横たわるサヤに近づくと、眠るサヤの顔を見て涙を流した。
ワクラバ:もうわからないんだ。楽になりたいのか、ここで生きたいのか
ワクラバ:ここにきて、73年目だ
ワクラバ:天使にとってはなんてことない数字だろ。一瞬かもしれない。でも俺には途方もないほど永く感じる
ワクラバ:【生きてたとき】よりも永い時間だ
ワクラバ:【ここはまるで地獄だ】
ワクラバ:あそこにいた時よりひどい。天国なわけがない……
ワクラバ:……俺が一丁前に何かを想っても、【お前】は俺を赦さないだろうな
ワクラバ:……
ワクラバ:君は俺の【罪】と同じ姿をしている
ワクラバ:どうか、俺が正気を保てるように、そのままずっと俺をみていてくれ。サヤ
ワクラバ:……、おれ 頑張るから
:ワクラバは顔を伏せた。
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:_________
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:サヤの家に帰って来たワクラバ。拘束具で達磨のように転がっているカンパニュラが目線で出迎える。
カンパニュラ:あ、おかえりー
カンパニュラ:ねえねえここ、お前の家じゃなくなーい? なんとなくだけどねー
ワクラバ:うるさい
カンパニュラ:だってさ、家の中に「ワクラバっていう天使の家が燃えた」とかいう記事が書かれた新聞があるんだよ? 天界の日付は知らないけど新聞の様子からしてそんなに遠い話でもないでしょ。いいの? この家勝手に使って
カンパニュラ:アわかった。ここ”ママ”の家でしょ。いまあの“ママ”は下半身ぶちとばして入院中だもんね。治るまでここ借りて家探し? やばあ
ワクラバ:“ママ”じゃない
カンパニュラ:じゃあなんだよ。娘?
ワクラバ:……。
カンパニュラ:ちぇ、だんまり。ちょっとはさー、話し相手に付き合ってよ。今日一日一人っきりで床に転がされて寂しかったんだ
カンパニュラ:そうそう、もぎ取られた羽の痛みを紛らわせるために考えてたことがあるんだ。あんた、どーっかでみたことあるなあって思って。
カンパニュラ:ぼく地底では罪人の看守やってたんだ~。人間の顔はずーっと見てたんだよね。すっごい仕事頑張ってたのに一回人間を行方不明にさせちゃって怒られてクビになったんだけどサ……
カンパニュラ:お前、地獄に落ちた人間だろ
ワクラバ:……違う、おれは、
カンパニュラ:【おれ】ね
カンパニュラ:神様は天界で生きる生き物を作る。天使っていうのはね、博愛と、服従と、無垢で出来るんだ。アイツらは疑えない。そして天使はみな同じ姿をしている
カンパニュラ:ワクラバ、お前は【違う】だろう?
ワクラバ:……黙れ
カンパニュラ:【天使は人の目を通すと理想の姿で現れる】。今まで出会った天使の姿はどんな形だった?
カンパニュラ:あいつらは人じゃない。心はない。そんな人たちの中で1人、人間だったころの生活をなぞりながら暮らすのはどれほど空(むな)しかったかな?
ワクラバ:……黙れよクソ悪魔ッ!!! (殴る)
カンパニュラ:グ……ッ! いた……。頭に血が上ったら殴るの、やめてよ。僕まだ前の悪魔狩りで負った怪我治ってないんだから
カンパニュラ:これから君が何をしたいかはわかんないけど、面白いことするなら別に飼われたっていいかもなあと思ってるんだよ。天使の中に紛れて人間が暮らすなんて面白いこと、見たいに決まってるじゃん
カンパニュラ:協力してやるよ。死者だけじゃ立ち行かないこともあるだろ?
ワクラバ:……フン。悪魔の手を借りるのは気に食わない。検討はしといてやる
カンパニュラ:【検討】! なんて人間らしい言葉だ!
カンパニュラ:そーだ、ぼくからもぎ取った羽の調子はどう? 死んだ人間にくっつけることができるなんて驚きだ! と思ったけど、つけても動かないならハリボテと一緒だよね
カンパニュラ:なにか策でもあるの?
:ワクラバは冷凍庫をあけた。そこから肉の塊を取り出す
カンパニュラ:ああうわ、肉だ。知ってる? 天使は肉なんて食べないんだよ。マ野菜も食べないけど
カンパニュラ:でもわかんないな。死者も腹減らないはずだよね。もしかして【初めてじゃない】のかな?
カンパニュラ:ねえねえ。どう調理するの? その肉なにになる?
ワクラバ:うるさい。なんでもいいだろ
:ワクラバは包丁を取り出し、肉をさばき始めた。
カンパニュラ:ウーム、肉の色からして最近取れたものと見た。大きさ、筋の様子から見てモモ肉あたりかなァ。牛でも、豚でもなさそう。
カンパニュラ:【天使臭い】
カンパニュラ:あれかな。経口摂取で【力】を手に入れよう、的な? 確かにそういうことできるかもね。僕達悪魔だってそれはできるし
カンパニュラ:でもわかんないな。あんた罪悪感とかないの? ぼくにはないけど
ワクラバ:今更そんなもの……!
ワクラバ:……
ワクラバ:来年、天使の試験があるんだ。そこで俺は天使のやつらを見返して大天使になる。そのために【力】が必要なんだ
カンパニュラ:ククク、なるほどね
カンパニュラ:「8月10日に起こった紫雲(しうん)103番地の火災事件」思えばここから始まっていたのかなァ。それとも、もっと昔から?
カンパニュラ:確かに火災が事故や誰かの犯行であれば、被害者のワクラバが逃げ出せなかった理由は考えやすいよね。”ママ”みたいに炎を得意な力とする天使の犯行だと考えば犯人はすぐ割り出せる
カンパニュラ:だがそれでは浅い。【家からでなかった】のは何故かがわかっていない
カンパニュラ:どうして火を使った? 【力】があるやつの犯行が本当であれば、火なんて原始的なものを使うわけがないんだ。だったら証拠も残さず存在を消すことも簡単にできる
ワクラバ:うるさいぞ
カンパニュラ:最初からずっと犯行は一人で行われていた。それが答えだ。つまんなくて面白い事件だよね
カンパニュラ:フフフ。富、力、【名誉】、なんて、腹も満たない見えないものをどーして欲しがるかな!
ワクラバ:ッ、黙れ
カンパニュラ:人間って、誰でも傷つけて、自分さえ傷つけても、その先で欲が満ちるならなんでもするんだから面白いよなあ
ワクラバ:黙れッ!!!
カンパニュラ:ここには家も、飯も、仕事も、お友達もできるんだから、それで十分だっただろうに
ワクラバ:黙れェェェェェッ!!!!!
:ワクラバは包丁に着いた血潮を布巾で拭い取り、カンパニュラにそれを向けた。
カンパニュラ:こわいって。一丁前に罪悪感があると? 地獄に堕ちた人間が? フフ、悪魔を家で飼うって決めたんなら、無駄話くらい許せよ
ワクラバ:ぶち殺す。何度でも切り刻んで痛めつけて、地獄にいたほうがマシなくらいに殺してやるッ、このクソ悪魔が、俺をナメんな!!!
カンパニュラ:人間は悪魔を殺せない
ワクラバ:今は天使だ!!!
カンパニュラ:あ、そ。じゃあそのまま僕のことも食べなよ
ワクラバ:悪魔なんか喰うわけないだろう、【天使の俺が】 !!!
カンパニュラ:天使とか悪魔とかより前に、私欲のために親友の肉食べることを気にしたほうがいいんじゃない?
カンパニュラ:そんなんだから娘に刺されて死んじゃうんだ。きもちわる
:
:
: ワクラバ(タイトルコール):次に悪魔が「お前が死ね」と言った。
:
:終
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